●ニュース: なゆた望遠鏡で赤方偏移 z=7.1 の天体を検出!(2019/04/10)

なゆた望遠鏡に搭載された近赤外カメラ (NIC) を用いてこの程、赤方偏移 (z) が 7.085 [注1]という、非常に遠方の天体を検出することに成功しました。これは今までになゆた望遠鏡を用いて観測された最遠方記録で、光の速度で約131億年かかる距離[注2]にあたります。

この天体は ULAS J112001.48+064124.3 (以下 ULAS J1120+0641 と略) という記号がつけられており、「クェーサー」と呼ばれる銀河の一種です。中心部には太陽の20億倍もの質量を持つ巨大なブラックホールがあると考えられており、そこに落ち込む物質が、銀河本体を圧倒するほどの明るさで光っています。ULAS J1120+0641 は、この明るさのおかげで z=7.085 という遠方でも観測することができるのです。

遠くの銀河の観測をすると、昔の宇宙の姿を直接見ることになります。今我々が見ている ULAS J1120+0641 の姿は、131億年前、宇宙の年齢が現在の約 5% だった頃のものです。何故131億年前の宇宙にこれほど巨大なブラックホールが存在できたのか、あるいはその先どんな姿に進化していったのか、はっきりとはわかっていません。これらを解明するには、より多くの詳細な観測を重ねる必要があります。

これまでなゆた望遠鏡を含む国内の望遠鏡で、これほど遠方の天体を観測してきた例はほとんどありませんでした。今回検出に成功したことで、国内の中小口径望遠鏡による遠方宇宙の研究に、道筋をつけることができました。これからさらに観測を進め、巨大ブラックホールの形成史・宇宙の再電離史への影響など、クェーサーにまつわる様々な謎に挑んでいく予定です。


NIC で捉えられた z=7.085 のクェーサー ULAS J1120+0641 の近赤外画像 (矢印の先の円の中)。80分間の積分によって、遠方のクェーサーが浮かび上がった。隣に明るく見えている星は、約 16 等 (AB等級) [注3]の明るさを持つ赤外線源。それよりさらに 4 等暗い ULAS J1120+0641 の観測がいかに困難かがわかる。


[注1]
「赤方偏移」とは、宇宙の膨張に伴って、遠くの天体からの光の波長が伸びる度合いを表します。遠くの天体ほど大きく波長が伸びるため、天体までの距離の指標となります。赤方偏移は通常 z で表し、天体からの光の波長が (1+z) 倍に引き延ばされていることを示します。ULAS J1120+0641 の場合は、分光観測によって、波長が 8.085 倍に引き延ばされていることが知られています (参考文献[1])。

[注2]
光が1年間に進む距離のことを1光年といい、およそ1013キロメートルに当たります。 遠方では距離の測定は非常に難しく、赤方偏移との関係を宇宙論モデルに当てはめて推定します。さらに、約10億光年 (およそ z=0.1 に相当) を越えるような遠方では、距離の定義の仕方によって数字が異なり、その違いが無視できなくなります。ここでは、国立天文台をはじめ多くの研究機関の一般向け記事にならい、以下の条件を採用しています。
(1) 一般的な宇宙論モデル (冷たい暗黒物質モデル)
(2) それを特徴付けるなるべく最新のパラメーター (ここでは参考文献[2]にある、H0=67.3、Ω=0.315、Λ=0.685を採用)
(3) 光が伝わってきた距離に基づく「距離」の定義 (光路距離)

[注3]
天体の明るさを表すには一般に「等級」が使われます。数字が1等大きくなると、明るさは2.5倍暗くなります。条件のよい空で目の良い人が肉眼で見られるのがおよそ6等までといわれます。16等とは、それよりもさらに10000倍暗いことを表します。 また等級の表し方にも種類がありますが、ここでは「AB等級」という値を使っています。こと座のベガを0等と定めた「ベガ等級」(可視光で良く用いられる) とは、1等から2等の差があります。

[参考文献]
[1] Mortlock et al. 2011, Nature, 474, 616
[2] Planck Collaboration et al. 2016, A&A, 596, A108



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