●ニュース:なゆた望遠鏡の成果: 近赤外偏光観測で小惑星ベスタ表面の粒子サイズを推定(2024/03/28)

大きめの小惑星の表面は、大口径望遠鏡を使っても解像して「見る」ことはできないほど小さな砂粒で覆われていると考えられています。「砂粒の大きさ」はその小惑星の歴史を反映する大切な情報です。
 これまで様々な方法で小惑星表面の粒子サイズの推定がされてきました。今回、KASI/ソウル大学の Yoonsoo P. Bach さんが主導する研究チームが着目したのは、近赤外線の偏光観測に基づく推定です。偏光とは、光(電磁波)の振動方向に偏りがある状態のことです。偏光は、光が粒子によって散乱されるときに生じます。散乱された光の偏光度は、粒子サイズに依存することが知られています。この性質を利用して、偏光度の測定から粒子サイズを推定できる可能性があります。近赤外線での小惑星偏光観測はこれまでほとんど実施されておらず、ベスタを始めとするV型小惑星に限れば初めてのことです。
 研究チームは、なゆた望遠鏡に搭載された近赤外線カメラNICを使って、小惑星ベスタの偏光観測を実施しました。図2が観測結果をまとめたものです。Jバンド (中心波長1.3μm) → Hバンド (1.6μm) → Kバンド(2.1μm)と波長が長くなるにつれ、偏光度位相曲線の凹み(偏光度が負の領域)が「深く、広く」なっています。これまで多く実施されてきた可視光の偏光観測では、波長を変えても凹みの形はほとんど変わりません。この観測結果と、粒子サイズが分かっている試料の測定結果を比べることで、ベスタ表面の粒子サイズは主として10-20μm程度であろうと推定されました。「どの波長範囲で凹みが『深く、広く』なるのか?」が、重要なポイントでした。
 今回の成果は、可視光だけでなく近赤外線でも観測したことで得られたものです。今後も、近赤外の偏光観測を用いた小惑星表面の研究が進むことが期待されます。


図1. NASAのDawn探査機が取得したベスタの画像。直径は500km程度で、小惑星帯で2番目に大きい。このような近接観測でも粒子サイズまでは判別できない。credit: NASA/JPL-Caltech/UCAL/MPS/DLR/IDA


図2. ベスタの近赤外偏光観測の結果 (Bach et al. 2024bより)。横軸は位相角で、太陽ーベスター地球のなす角のこと。縦軸は偏光度。偏光度の正負は偏光の方位を表している(正は散乱面に垂直、負は散乱面に平行)。青点・緑点・赤点が、それぞれ、Jバンド (中心波長1.3μm)・Hバンド(1.6μm)・Kバンドの観測値。観測点にフィットする曲線を偏光度位相曲線という。

本研究の論文
(1) Bach, Y. P., Ishiguro, M., Takahashi, J., Geem, J., Kuroda, D., Naito, H., Kwon, J., Quantitative grain size estimation on airless bodies from the negative polarization branch. I. Insights from experiments and lunar observations, 2024a, Astronomy & Astrophysics (in press)
(2) Bach, Y. P., Ishiguro, M., Takahashi, J., Geem, J., Kuroda, D., Naito, H., Kwon, J., Quantitative grain size estimation on airless bodies from the negative polarization branch. II. Dawn mission targets (4) Vesta and (1) Ceres, 2024b, Astronomy & Astrophysics (in press)



トップページへ戻る