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ハッブル最深宇宙

ハッブル望遠鏡が最深宇宙で見せたもの

−果たして銀河はその姿を変えたのか−

まずカラーの図1をご覧いただこう。これは有名な「ハッブル・ディープ・フィールド(最深宇宙像)(HDF)」である。1996年に発表されてからあちこちの本にも掲載されているので、見たことのある方も多いであろう。この中には、小さい奇妙な形をした青い銀河がたくさん写っていた。そして、これらの銀河は銀河ができはじめたころのようすを示していて、この後に衝突や合体を繰り返した結果、私たちが見慣れている渦を巻いている銀河などができてきたとされてきた。ごく最近出版された本でもそのように書かれている。

しかし、果たしてそうであろうか。遠くだということは、宇宙膨張のためにすごい速さで遠ざかっていることになる。ということは、本来の色と比べるとすごく赤くなっているはずだ。そして、ハッブル望遠鏡が撮影したときには私たちの目にも見える可視光と呼ばれる光を使っている。つまりハッブルが捉えた光は本来の色はもっと青かったはずである。とても遠くの銀河であれば、目には見えないぐらい青い光(紫外線)での姿を見ていることになる。比べるのであれば、私たちの近くの銀河を紫外線で見た姿と比べてみることが必要であろう。

しかし、紫外線は地球の空気で遮られてしまうために、実際に観測することはなかなかできなかった。最近、スペースシャトルから低高度の軌道に投入された紫外線撮像衛星(UIT: Ultraviolet Imaging Telescope)によってようやくある程度のデータが集まってきた。そして、ごく最近にKuchinskiたちは、このデータを使って近くの銀河がHDFの位置にあったらどのように見えるか調べてみた(astro-ph/0106454, 2001)。遠くになるために全体が暗くなる、見かけが小さくなるために画像上での分解能が悪くなるといった効果も取り入れられている。たとえば、おおぐま座の渦巻銀河M101は図2のようになる。紫外線では、腕のところどころにある活発に星ができているところが明るく写っている。そして遠くにあることで、明るいところだけしか見えないとすれば、図2の右側のように、不規則な形になってしまう。りょうけん座のM51も図3のように姿が変わるはずだ。いろいろな銀河の紫外線画像をこのように処理してみると、HDFなどの遠くの画像に写っていた奇妙な形の銀河のような姿になるものも見つかってきた(図4)。楕円銀河では新たな星は作られていないので紫外線ではほぼ見えない。そして、渦状銀河は不規則な姿に見えてしまうものが多い。逆に、近くで見ていると特異な銀河に見えたものが遠くにいくと、一番明るいところだけが残って、コンパクトで規則的な姿に見えるようになる例もある。全体として、主に紫外線でながめていることになることが原因で、不規則な姿になる銀河の数がたいへん多くなることがわかった。Kuchinskiたちによれば、HDFで写っていた奇妙な姿は、紫外線での銀河の姿だったということで、ほぼ説明がつきそうだという。さらに、遠くの銀河をもっと赤い光(遠赤外線)で撮影してみること、そして近くの銀河の紫外線での画像をもっと増やすことで、ほんとうに銀河がHDFのころと比べてその姿を変えたのかどうか調べることができるだろうと提案している。

これまでにハッブル望遠鏡は、さまざまな宇宙の姿を私たちに見せてくれた。そして、私たち自身もさまざまな姿を見たと考えていた。しかし、その「姿」はほんとうの宇宙の姿だろうか。もちろんハッブル望遠鏡はこれからもさまざまな宇宙の姿を見せてくれるだろう。私たち自身もこれからも見たと考えるだろう。しかし、その一方で、私たちが見たと思っているだけで、実はほんとうの姿を捉えていなかったものも、いろいろと明らかになっていくに違いない。

宇宙Nowの文章は、通常は「ですます調」で書くことになっているのですが、この文章は「である調」にした方が文章のテンポが良くなるように思いましたので、あえて「である調」にしました。論文の内容をある程度紹介したフルバージョンでは掲載スペースが足りなかったため、フルバージョンはこちらに出すつもりにして、かなり文章を減らしましたが、それでもまだ、ぎゅうぎゅう詰めの感じで掲載されています。また、図が合わせて掲載されることになっている文章ですので、上の文章のみではわかりづらい点もあろうかと思います。掲載した宇宙Nowを合わせてご覧いただく方がわかりやすいかもしれません。いちおう、図があるところには、上記の文章の中からリンクをしておきましたが、いずれも英語ページですし、片方は論文の中の図ですので、研究者以外で興味を引かれた方にはリンクからたどって図を探すことはおすすめいたしません。

フルバージョンでは、図は以下のようなものを考えていました。

  • 図1 ハッブル・ディープ・フィールド。(NASA提供)
  • 図2おおぐま座の渦状銀河M101の紫外線像。右はHDFの距離にあった場合の姿(astro-ph/0106454より)。(論文のFig. 1)
  • 図3りょうけん座の渦状銀河M51の場合(astro-ph/010645より)。(論文のFig. 2)
  • 図4近くの銀河の紫外線像より得られたHDF中の奇妙な姿の銀河に似ている例(astro-ph/0106454より)。(論文の Fig. 13)

掲載スペースの関係で、図2と図3は合わせて一つの図にして掲載しました。また、元の論文のM101の図には、下半分にNGC4214という別の銀河が合わせて出ていたのですが、スペースの関係で、M101のみを取り出して掲載しました。最初は、図の説明に、このことも書いたのですが、スペースが足りないためどんどん文章を削らざるを得ず、最終的に掲載した形態では、掲載の都合で図の一部を使ったことを明記できませんでした。こちらの方には明記しておきます。


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