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脈動とはどのような現象か

高等学校の理科系向けの物理では、振動は必ず学んでいるはずである。この稿で扱おうとしている「脈動」にはこの振動とある程度共通する点があるので、ここでは振動と比較も行いながら、脈動とはどのような現象で、脈動星にはどのような特徴があるのかを見ていくことにする。

 脈動と振動

まず、私たちの最も“身近”にある脈動しているものとしては、私たち自身の心臓を挙げることができる。残念ながらあまりにも“身近”過ぎることと、動いている心臓を見ることはややグロテスクでもあることから、これまでに心臓がどのように動いているのかをつぶさに観察する機会のあった人は、それほど多くはないと思われる。しかし、どのように動くものか想像はつくであろう。つまり、振動は右へ左へ(あるいは上へ下へ、など)と振れる動きのことであり、脈動は膨らんだり縮んだりする動きのことである。なお、膨らんだり縮んだりする際に、恒星の表面温度が変動し、このため多色測光を行うと色の変動が見られる。連星の場合には基本的には目立った色の変動は起こらない(ただし、大きく表面温度が異なる二星で皆既食が起こる場合や、近接連星系における照射効果などにって、ある程度の色の変動がとらえられる可能性はある)。このことから、脈動による変動と食による変動を区別することができる。

脈動には、全体の大きさが主に変化する場合と、形が主に変化する場合がある。球形である恒星の場合には、大きさが変化する場合は動径脈動(radial pulsation)、形が変化する場合は非動径脈動(non-radial pulsation)となる。恒星の脈動では固定点が存在する。それは恒星の中心である。そして、恒星の表面は自由境界となっている。このような状況は、片側を閉じた管内の空気柱の振動との間に良いアナロジーが成立するので、比較してみよう(図1)。なお、開いた管内の空気柱の振動では、中心が固定点とはならないため、動径脈動とのアナロジーは成立しない。

閉じた管内の空気柱の振動では、空気柱の途中に節が生じるような陪振動が起こり得る。同様に動径脈動の場合も、陪振動モードが起こり得て、ある半径を境にして、その外側と内側とでは逆向きの動きをする。

このように、振動と脈動には類似する点が多数あるが、ここで、一つ注意が必要な点を挙げておく。それは、弦の振動(図1:参考図参照)では、第1陪振動の周期は基本振動の周期の半分となるが、恒星の振動の場合には、必ずしもそのようにはならないことである。これは、振動では弦は均一であるが、恒星は密度構造を持っていることが違っているためである。

非動径脈動の場合には、動径脈動において恒星の内部に存在した節が、恒星の表面にいくつか存在しており、その節が経度方向に沿っていくつ存在し、緯度方向にそっていくつ存在するかによって、多数のモードがあり得る(図2)。

非動径脈動の場合は、高次のモードが励起されている場合には、恒星の表面を波が入っているようなイメージに近くなる。それに対して、低次のモードであり、恒星が変形しているというイメージに近い。

 脈動の励起メカニズム

先のサブセクションで述べたように、動径脈動の場合も、非動径脈動の場合も、無限のモードが有り得る。しかし、実際の脈動星では、通常はこれらのモードのうち特定のモードのみが励起されて成長し、観測可能なほどの大きな振幅を持つようになる。こういった脈動の励起を引き起こしているメカニズムはどのようなものであろうか。

励起メカニズムとしてはいくつかの可能性があるが、実際に観測されている脈動星の多くでは、それらのうちκメカニズムと呼ばれるメカニズムによると考えられている。以下、そのκメカニズムの働き方を説明する。

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