3−2:2003年の火星 赤羽徳英(元飛騨天文台),時政典孝(西はりま天文台)

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(1)2003年の火星暦

火星の視直径が 8"以上となる期間は4月11日〜2004年1月6日であり、10"以上の期間は5月8日〜12月10日である。撮像による場合,視直径が10"以上あると、模様が写りやすく楽しく観測できる。5月から12月の間は、火星では北半球の晩夏から仲秋、南半球の晩冬から仲春である。その間地球から見た火星面中央の緯度は、ほぼ赤道付近にある。

2003年の軌道図
拡大図 拡大図(14KB)

15年ぶりの火星大接近の年に当たり、既に火星観測を始めている方もおられることでしょう。今年は5月半ばから12月半ばまで火星の視直径が大きく、観測しやすい期間となります。この間、subsolar point と subearth point が共に火星南半球にあります。6月以降の subeatrh point は南緯20度以南にありますので、火星南半球が大きく地球方向に向きます。
参考のために1ヶ月毎の火星歴を示します。

Subsolar point : 火星上で太陽が天頂に見える地点
Subearth point : 地球から見た火星円盤の中心点(火星上で地球が天頂に見える地点)

火星暦

Date Ls Ds De D
May 01 177+ 1-16 9.5
Jun. 01195- 6-2012.4
Jul. 01213-14-2116.7
Aug. 01232-20-2022.4
Sep. 01252-24-1925.0
Oct. 01271-25-2020.7
Nov. 01290-24-2415.0
Dec. 01308-20-2611.0
Dec. 31325-14-26 8.5

より詳しい火星暦は こちら

Ls : 火星から見た太陽黄経(度:Ls=90゚は火星北半球の夏至,180゚=秋,270゚=冬至,0゚=春)
Ds : Subsolar point の緯度(度)
De : Sobearth point の緯度(度)
D : 視直径(秒)

観測日時における火星の暦は http://www.nhao.jp/~tokimasa/mars/ephem.html にて参照できます。


(2)2003年に観測可能な現象の概観

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この表の Ls の値から分かるとおり、今年は南半球の春から盛夏の様子が観測できます。過去の観測を参考にして、今年見られそうな主な現象を予想してみます。

1.黄雲(砂嵐)
火星の視直径がかなり大きい8月,9月は火星南半球の晩春であり、大きな黄雲が発生する可能性があります。今年の火星に見られそうな現象として、最も期待されているものです。過去の記録によりますと、火星南半球の晩春から初夏に大黄雲が発生する傾向にあります。2001年では予想外に早く大黄雲が発生しました(Ls〜187)。太陽湖付近とヘラス付近は大黄雲の発生場所として有名です。黄雲の発生(発生日と発生場所)や黄雲の移動(速度と方向)の観測は火星気象・気候の研究に大変役立ちます。

2.模様(albedo features)の変化
南半球の中ー低緯度帯を取り巻く暗い帯の濃さは年により大きく変化します。南半球の春から夏には淡くなる傾向があります。多分それは砂嵐と関係していると思われます。また、模様が大きく変化する事があります。本来明るい場所が暗くなったり、逆に暗い模様が周囲と同じ明るさになり目立たなくなる事があります。太陽湖の西側にあるダエダリア(Daedaria)は明るい地域ですが、大黄雲が発生した1973年には東西に延びる暗い帯となりました。それが本来の明るさに戻るのに数年かかりました。また大シルチス(Syrtis Major)の東側から湾曲をなして北ののびる暗い帯(Nepenthes-Boreosystis)はほとんど消えかけたままで回復していません。

3.南極冠
上の表から推測しますと、今年の5月には大きな南極冠が見えているはずです。しかし、視直径が最大となる衝の頃にはかなり小さな極冠になっているでしょう。5月始から8月末までが南極冠の観測好機といえます。極冠の大きさや縮小速度は年により変化しています。過去の記録と比較することにより、今年の火星の気候は正常であったのか否かをある程度推定できます。今年は地球方向への火星自転軸の傾きが大きく、南極冠の観測には適しています。

4.白雲
南半球の春から夏は火星全域で水蒸気の少ない季節です。そのため今年は活発な雲の活動を期待できそうにありません。しかし,北半球の低緯度地方にあるオリンパス山(Olympus Mons)やエリシューム山(Elysium Mons)には昼雲が見られるかもしれません。昼雲は午後の早い時期に北半球の高い山に発生する雲塊です。南半球の秋から冬(北半球の春から夏)にかけては毎日見られますが、季節の進んだ今年もまだ見られる可能性があります。今年は何日頃まで(Lsの何度まで)発生していたかを確認する好機です。南半球に昼雲が観測されたという記録はありません。南半球は高地ですが、高い山がないために昼雲が発生しにくいのかも知れません。

今年期待できそうな現象を列挙しましたが、予想通りにいかないのが自然現象です。突然大異変が出現するかもしれません。ためらわずに観測の速報をお願いします。


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