2001年の4月から、西はりま天文台公園の2m望遠鏡計画がスタートしました。光を集める鏡の直径が2mもある望遠鏡は日本国内では最大となり、また公開目的の望遠鏡としては世界最大の大きさになります。こういう謳い文句、大きさ自慢はこのくらいにします。ここでは私たちが、この新しい望遠鏡に何を込めているのかを紹介することにします。 |
[1]2mという口径
望遠鏡はレンズや鏡をつかって、見たいモノからやってくる光をできるだけたくさん集めて、目で覗いたり写真に撮ったりする道具です。天体からやってくる光は、非常に微弱なものですが、光を集めるレンズや鏡が大きくなれば、そんな天体でも明るく観察できます。レンズや鏡が大きくなると、もう一つの利点が生まれます。レンズや鏡の直径が大きくなると、光の集まる点が理論上小さくなるのです。印刷物はインクの斑点が小さいほど、その中の文字や絵は細かな模様まではっきり見えます。望遠鏡の見え味でも同じです。望遠鏡のレンズや鏡は大きいほうが、理論的にはシャープに見られて良いということです。2m望遠鏡では、目で覗いた場合、10億光年ほども離れた銀河の姿まで見ることができます。冷却CCDカメラ(天体撮影に適した一種のデジカメ)を使えば、宇宙の遠方(百億光年ほど)にあるクエーサーと呼ばれる天体まで撮すことができる性能です。
20世紀は数mクラス望遠鏡の製造技術と電子技術の進歩が合わさって、銀河やクエーサーの観測から宇宙論が進歩した世紀でした。太陽系や星の誕生,その他の天文現象についても、このような観測能力の進歩によって、みなさんにとって興味深い事実がたくさん見つかりました。公開天文台が2m望遠鏡を導入するということは、20世紀の天文学上の事実を、みなさんが実際に確かめることができるということなのです。
[2]2m望遠鏡の機能と観測装置
口径2mの望遠鏡は、21世紀始まりの今日にあって、決して最先端技術でも最先端性能でもありません。しかし、みなさんに現代的な天文学の事実を確かめてもらったり、研究成果をみなさんと分かち合うことのできる望遠鏡として機能する為には、「最新の技術」を幾つか導入する必要があります。私たちの計画では、それを主に望遠鏡に搭載される観測装置と、望遠鏡を制御するためのロボット技術(統合制御システム)に求めることにしました。
2m望遠鏡の機能の一つは「目で覗く機能」です。眼視観望装置は2m鏡で集めた光を最も効率よい条件で瞳へと導いて、これまでのどの公開望遠鏡よりも、遠方の天体をはっきりと見せることを目指しています。この機能では実質的に世界最先端になるはずです。
もう一つは肉眼で見えないものを撮す機能です。3波長同時観測近赤外線カメラ,超高感度高画質カラーカメラ,可視光分光器,可視冷却CCDカメラといった観測装置が、その機能を担います。
3波長同時観測近赤外線カメラは、目には感じることのできない近赤外線と呼ばれる光で、天体を撮すことができるカメラです。3つの色(光の波の波長)違いの近赤外線で画像を同時に観測することによって、私たちの目が近赤外線を感じるとしたら、宇宙がどういう色に見えるのかを正確に示すことができます。
超高感度高画質カラーカメラは、目で見える宇宙を目で見たように記録するカメラです。このカメラは肉眼とほぼ同じか少し高い感度を持つビデオカメラです。2m望遠鏡を目で覗いて見える天体をカラーで記録することができます。ところで目と同じくらいの感度と言っても、人間の目は暗いものを見るときには色を感じなくなってしまいます。超高感度高画質カラーカメラは、目で覗くと白黒にしか見えない天体もカラーで記録するのですから、目の能力をさらに拡大させる機能ということになります。
可視光分光器は、天体からの光を色の成分に分解して、どの色の光がどのくらい強いか(または弱いか)を調べる機械です。天体の色には、光を放っている部分の温度や動きなどの様々な情報が含まれます。この機械を使うと、何十光年以上も遠く離れた天体まで行って、温度計を突っ込んできたり、物差しとストップウオッチで速度を測ってきたかのような情報が得られます。まるで魔法の箱ですね。色の成分の強弱から様々な情報を引き出す原理を理解するには、一筋縄では行かない物理学の知識が必要ですが、観測に立ち会って情報が出てくる様子を体験することは、工夫次第で誰にでもできるでしょう。この不思議な出来事がなぜ魔法ではなく科学なのか。それを実体験の感動から動機づけて学習していくことが、今の教育に必要なことだと思います。
可視冷却CCDカメラは、望遠鏡で集めた天体からの光をほとんど漏らさず記録して天体を撮すことができる究極の高感度カメラです。2m望遠鏡との組み合わせが、20世紀の天文学を牽引した強力コンビの再現であることは先ほど述べた通りです。
可視冷却CCDカメラに限らず、ここに挙げた観測装置は、いずれも20世紀最後の時期に研究観測に登場し、最先端とは言わないまでも定番として活躍しているものです。みなさんに現代的な天文学の事実を確かめてもらえると書いたのには、そういった背景があるのです。
しかし、みなさんの中には、ここで「待てよ?」と疑問に感じる人もいるはずです。「こんな専門家が使っているのと同じような観測装置があったって、普通の人には、どう使うのかも、どうやって研究に利用するのかもわからないんじゃないか!」そうですね。専門家の使う装置は複雑で、一般の人には、どうしてそうするのかわからない手順を踏んで操作されます。得られた観測データも同様に、なぜそうするのかわからない手順で処理を行っています。そもそも結果を導くまでの複雑な過程を、考えたり理解したりできるのが専門家だと言えるでしょう。でも一般講演会などで「宇宙のある事を調べるために観測をして、結果がこうなったので宇宙は××であった。」なんて話を聞くと案外わかるものです。面倒くさい過程を飛ばして、研究の動機と観測のツボ(観測値がAなら○○、Bなら××といった事実)だけを説明して結果を見せるからです。えっ「それとこれと、どういう関係があるのか?」ですって。それは、もう一つの要であるロボット技術につながるのですが、それは次に説明しましょう。