2メートル望遠鏡の仕組み1

新天文台も完成し、観測室内で組立てと鏡の取付けが終了した西はりま天文台2メートル望遠鏡。今回は2メートル望遠鏡の仕組みを、最新画像をまじえて紹介しようと思います。

 

03年12月:機械としての組立が完了した2m望遠鏡
04年2月:主鏡,副鏡,第3鏡がついた2m望遠鏡

1.2メートル望遠鏡のコンセプト
 西はりま天文台2メートル望遠鏡に対する要件は次の4つです。
  ・教育・普及用に印象的なデータが取得できる
  ・比較的少数のマンパワーで運用できる
  ・気象条件に応じて短時間で観測ができる
  ・一流の研究観測が可能である
このため2メートル望遠鏡は3つの焦点(光が集まる場所)を持ち、5つの特徴ある観測装置を搭載して、使う観測装置に応じて焦点を切り替えるという方式を採っています(図1)。


図1:2m望遠鏡の透視図(三菱電機提供の画像に西はりま天文台で加工を施している)

これにより重い観測装置を載せ換える必要がなくなります。
 また統合制御システムという計算機システムを設け、観測者が使いたい装置を選び観測したい天体に向ける、というシンプルな要求によって操作が行える工夫をしています(図2:これについては後ほど説明します)。2メートル望遠鏡の各部の名称と構成品を図3に示します。これらの中から一部をかいつまんで、2メートル望遠鏡の仕組みを説明していきます。

図2(左):統合制御システムの制御構成図

図3(右):2m望遠鏡の各部名称

2.主鏡は光を集める心臓部
 望遠鏡の性能を決める重要な部品の一つは何と言っても主鏡です。直径2メートルの主鏡は、主鏡セルという容器の中に収まって望遠鏡の筒の底に取り付けられています。収まっていると言っても、単に容器の壁にぴたっと押しつけられているわけではありません。セルの底からは鏡を上向きに支える棒が出ていて、重りとの釣り合いで鏡が底に付かないようになっています。また横方向にもバネの力で支えられ、壁面に押しつけられることはありません。主鏡はセルの中でそっと浮いた状態になっているのです。特に西はりま天文台2メートル望遠鏡の鏡は、軽量化のため通常より薄く、一部肉抜きされたガラスを使っています(図4)。このため面精度(鏡表面の形状の正確さや滑らかさ)を保てるように、セルの中での主鏡の位置は厳しく決められています。図5は、今年5月に撮影された主鏡の様子です。鏡の表面の形は数千万分の一ミリの精度で磨かれています。直径を二十キロメートルに引き延ばしても表面の形のズレは一ミリ程度にしかならないことに相当します。


図4(上): 直径2メートル主鏡の形状,図5(下):形状だしが終わり(左)、研磨された主鏡(右)


3.副鏡部は星像を最良に調節する
 2メートル望遠鏡は、主鏡によって筒先に集まりつつある光を筒先に取り付けた副鏡で折り返し、最終的に1点に集めることをします。光が集まった場所に天体の像ができるわけですが、その場所に装置を取り付け、目で覗いたり写真を撮ったりするためには正確なピント調節が必要です。この調節は副鏡を筒先で微妙に前後させることによって行います。また望遠鏡の筒は、傾けると自分の重みで少し曲がったりします。そうなると本来は一直線上に並んでいなければならない主鏡と副鏡にズレが生じてしまいます。このままだと望遠鏡の像が悪くなるので、それに合わせて副鏡は左右・上下にも微妙にスライドさせられるようになっています(図6左)。副鏡は図6右のようなものです。主鏡で跳ね返った光を折り返すだけに思える副鏡ですが、結構複雑な調整を要求される部分なのです。
 ちなみに望遠鏡の筒は鏡筒部と呼ばれ図7のようにセンターセクションとトラスとで構成されています。

図6:副鏡の動き(左)と副鏡(右)

図7:鏡筒部の構成


4.焦点を切り替える第3鏡部
 西はりま天文台2メートル望遠鏡には光が集まる焦点が3カ所あると言いました。これらの焦点から一つを選んで光をそちらに導くのが第3鏡の役割です。第3鏡は望遠鏡のセンターセクションの部分、3つの焦点の中間にあって鏡の向きが変えられるようになっています。図8は第3鏡の向きの状態を示したものです。左は副鏡に折り返された光を、さらに直角に曲げるようにした状態です。向きを左右に回転させればナスミス焦点1からナスミス焦点2へと光を集める場所を切り替えることができます。右は第3鏡を引っ込めた状態で、この時にはカセグレン焦点に光が集まります。

図8:第3鏡の動きと役割


5.カセグレン焦点部

 カセグレン焦点は2メートル望遠鏡の3つの焦点に中で、望遠鏡本来の性能が最も発揮できる焦点です。主鏡と焦点までの間に副鏡以外の鏡がないからです。この焦点で映し出される像の広さは約20分角(一度の三分の一)の円になります。
 カセグレン焦点部(図9)には可視冷却CCDカメラ(天体観測に特化されたデジカメ)と3波長同時観測近赤外線カメラ(目に見えない近赤外線で撮すことができる、3CCD方式のカラーデジカメのようなもの)が搭載され、これらは簡単に切り替えて使うことができます。もう一つ特徴的な仕組みを紹介しましょう。それはインスツルメント・ローテーターと呼ばれるものです。単にカメラを鏡筒に対して回転させる仕組みですが、2メートル望遠鏡にとっては、日周運動(太陽や星がおよそ24時間の周期で北極星付近(天の北極)を中心に回るように見える現象)に合わせて天体を追尾する時に必要不可欠なものです。それは2メートル望遠鏡(鏡筒)を載せる機械(架台)の仕組みと関係があるのですが、それについては次にお話しすることにしましょう。


図9:カセグレン焦点部(左)の構造。インスツルメントローテーターは黄色い部分全体を回転させる。装置交換機構は、二つの観測装置(赤褐色の大小の筒:観測装置の模擬体)を手動で切り替える。大きい筒は3波長同時観測近赤外線カメラ(右:画像提供 住友重機)になる


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