干渉計の原理について

1.波(光,電波など)の干渉
2.(光学,電波)干渉計とは
3.干渉計を使った測量と画像合成

 

1.波(光・電波など)の干渉

 波と一口に言っても色々なものがあります。音波は高校物理の授業で習うこともあり、日常経験からも身近な例であろうと思います。音楽で習う和音は、異なる周波数の音波が重ね合わされて生じる、音の干渉現象の一つです。 しかし波の干渉は何も周波数の違う波の間でだけ起きるものではありません。 それでは波の干渉の様子を、数学的な計算を使ってグラフに描いてみましょう。

 まずは周波数の違う波どうしを干渉させます。

ちょっと複雑なパターンが繰り返されているでしょう。この波形が和音の不思議な音色の正体ということになります。

 次に同じ波長の波どうしを干渉させます。 ここでは波を重ねるときの合わせ方を違えて例を2つ示します。

  

右のように重ねる波の山と谷がぴったりそろっていると、干渉の結果生じる波は最も強め合うことになります。一方、ずれて重ねてやると、生じる波は最も強め合った状態よりもそのぶん弱くなります。山と谷を正反対にして重ねる時は、生じる波が最も弱くなります。この事実を記憶に留めておいてください。

 

2.(光学,電波)干渉計とは

  一般に波を干渉させる装置全般を干渉計と言うのでしょうが、ここでは天体観測装置に限定して、干渉計と言うことにします。干渉計は、複数の(光学,電波)望遠鏡を連動させて、測量をしたり非常に細かな天体の画像を合成する装置です。この干渉計という装置で行われる処理は2つあります。

1)2台の望遠鏡で得られた特定の周波数(波長)の光または電波の受信信号どうしを干渉させて最も強め合う条件を導く。

2)最も強め合う条件で生じた干渉の波形の強さ(=波の振幅=>コントラスト)を測る。

ここで強調しておきたいのは、幾らたくさんの望遠鏡を連動させた干渉計といっても、一度に干渉させるのは1対(つまり2台)の望遠鏡で得られた光または電波の受信信号であるということです[電波の加算型干渉計だと一辺に干渉させられるとか色々あるのですが、とりあえず、そういうものだとしておきます]。

干渉させるには
 次に、干渉計で光や電波を干渉させることについて深く説明します。光や電波は、電磁波としてまとめられる波のうち、周波数の違いによって呼び方を区別しているものに過ぎません。それでは電磁波というのは何か。身の回りの空間には、物体に影響を与える性質が潜んでいます。その性質を“場”と言いますが、電磁波は周囲の空間が性質として持っている“電場(電荷を持った粒子に影響を与える性質)”,“磁場(磁石に影響を与える性質)”の強さが振動しているものです。原則として、電磁波は、電場の変化をもって表現します[磁場の変化は電場の変化に引きずられて生じている...と解釈しています。つまり電磁誘導ですね。]。さて、天体からやってくる電磁波を2台の望遠鏡でそれぞれ受けた時、受けた電磁波を干渉させて最も強め合う条件は何でしょうか。電磁波が無限に続く波だったとしたら山も谷も周期的に延々と繰り返すので、2つの望遠鏡で受けた電磁波を干渉させた場合、強め合う条件も繰り返し現れて、条件は無数に存在することになります。しかし、そう単純ではありません。電磁波は波でもあり粒子でもある「光子」を単位としてやってきます。干渉して強め合うことができるのは、天体を同時に出発した干渉する素質のある光子どうしなのです。この光子どうしを重ねないと干渉することはありません。そこで問題になるのが、

・天体を同時に出発した光子は、2つの望遠鏡に同時に到着しない

という事実です。
下の図を見てください。

天体が、方位は望遠鏡が並んでいる方向と同じ,高さがθの位置にあるとして、電磁波を受けることを考えましょう。望遠鏡の向いている方向(この場合は高度θ)と望遠鏡間の距離(LB)によって、望遠鏡Bは天体から距離がわずかに遠くなっています(光路差=LB・sinθ)。その分、到着時間が遅くなるということがわかるでしょう。この時間差をつじつま合わせして干渉させる必要があります。

電波の事情,光の事情
 同時に天体から発せられた光子の到着時間差のつじつま合わせは、電波と光とではやり方が違います。電波と光とでは、受信(受光)の内容が物理的に違っているからです。電磁波は電場の変化の波だと言いました。電場の変化の時間スケール(周期)は波の波長で決まります。ですから電波による時間スケールは、光のそれに対して、波長の長さの分[電波:(例えば)〜5cm,光:〜0.00005cm=>10万倍]非常にゆっくりなのです。人類のテクノロジーには常に限界があります。電波の受信機では電場の強さが波として変化する様子を時間的に記録できますが、光の受光器ではとてもとても反応が追いつきません。光の受光器は、その波長での電場の変化よりもずっとゆっくりしか反応できません。実際、「その反応時間内に光子が何個やってきたか」を数えるものになっているのです。
 こうした事情によって、電波干渉計では、2つの望遠鏡で観測時間を決めてデータを記録しておけば、後日記録した磁気テープなどを持ち寄って計算機上で干渉させることができます。 光路差による時間の調整は、磁気テープのデータを重ねる時に時間差を適当につけてやれば良いことになります。また、計算機上で処理できるので、自然な干渉現象のように波を足し重ねるだけでなく、かけ算させるなどデータ処理の都合に合わせた色々な事ができます。
 一方、光の干渉計では、それぞれの望遠鏡で受光してしまったデータは、もはや波の性質を持ち合わせていません[光の粒が何個来たかというデータなのですから]。 光の干渉計では、何が何でも、望遠鏡どうしの光を干渉させて、その状態を受光器で記録しなければならないのです。 そのため光の干渉計では、それぞれの望遠鏡で集めた光を、鏡などを使って引っ張り回して一カ所で重ねる(干渉させる)光路が必要です。しかも望遠鏡に光が到着する時間差を埋めるために、一方の望遠鏡(上図ではA)で集めた光をわざわざ遠回りさせる迂回路が不可欠なのです。

この迂回路を遅延線と言います。この遅延線の距離が光路差と正確に同じになると光の波は強め合います。光路差は望遠鏡の位置関係や観測天体の位置によって変わりますから、それに合わせて遅延線を変化させる必要があります。しかも何十〜何百mという距離の変化を光の波長の何十分の1[〜0.0000001cm]という精度で制御しなければなりません。この遅延線の技術を確立するのが難しいぶん、干渉計の実現と観測技術は、電波天文学の方が先行して発達することになりました。

 

3.干渉計を使った測量と画像合成

  さて、ここまでの話では

・波を干渉させると波形はどうなるか

・干渉計ではどんな処理をするのか、光と電波での干渉させ方の違い

について説明しました。いよいよ佳境です。干渉計による観測で「何がどうしてわかるのか」について説明することにしましょう。

干渉計による測量の原理
 干渉計を使ってできること、その一つは正確な測量です。具体的には天体の正確な位置(天球上のどの場所に位置するか)や地面の動きなどを測ることができます。 干渉計では、

「1対の望遠鏡で得られた特定の周波数(波長)の電磁波を干渉させて最も強め合う条件を導く処理を行う」

と説明しました。実はそれが、光路差によって光子が到着する時間差のつじつま合わせになるのです。つまり2つの望遠鏡からの信号が最も強め合うように調整されると、その時の2つの望遠鏡の光路差が正確に測定されたことになります。光路差が測られるということは、天体の位置(先ほどの図ではθ)が導けるということになります。干渉計を組む場合、2つの望遠鏡の距離を遠く離すほど、望遠鏡の向きが少し変わるだけで光路差がたくさん変化するようになりますから、それだけ精度良く天体の位置を測れるようになります。その精度は角度にして、

(電磁波の波長)/(望遠鏡間の距離)[ラジアン]

の数十分の一程度くらい良いはずです[1ラジアン=約57.3度]。だって、波を干渉させて最も強くなる条件を探すということは、光路差を波長よりも正確に求めるつじつま合わせをしたということになるのですから。
 地面の動きはどうすれば測れるでしょうか。 それには宇宙の遠方にあるクエーサーのような天体を使います。経験からわかるように、遠くにあるものの位置は、少しくらいの年月では見かけ上変化しません。つまり時間を置いて観測しても光路差は、観測時刻の指定による予報と正確に一致するはずです。時間を置いて観測した時に、光路差が予報と大きく違っていたら...地面が動いて望遠鏡の位置関係が変化したと判断することができるというわけです。ちなみに上の式ですが、望遠鏡間の距離をレンズ(鏡)の直径と読み直すと、望遠鏡の分解能を与える式になります。つまり、この式は、干渉計の分解能の式になります。一般に、望遠鏡を使って得られる位置の決定精度は、分解能よりも数十倍ほど高くなります。

干渉計による画像合成の原理
 さて、干渉計でできることのもう一つは、良く聞く「望遠鏡を○km離して使って直径○kmの望遠鏡として機能させる」というものです。これは最大○km離した望遠鏡で干渉させると、直径○kmの望遠鏡相当の画像を合成することができるということです。この技術を“開口合成”[バラバラに置いた望遠鏡の開口(鏡やレンズ)を一つの大きな開口に合成する]と言います。開口合成の理屈を説明するのは、正直、かなり難しいことです。大学の理系専攻で学ぶ数学で初めて習う概念が必要だからです。しかも、その概念は、あまり直感的ではありません。ここではまず、その難しい概念をバイパスして、直感的ではあるが狐につままれたような(つまり論理に飛躍がある)説明をします。次に大学で習うその難しい概念の中から理解に必要な事実を天下りに与えて(この部分が寄り道になります)、それを元に抽象的ではあるが論理が飛躍しない説明を試みます。

 干渉計を使って点光源(望遠鏡を離した距離で決まる分解能よりも小さな広がりしか持たない光源)を観測すると、直接得られる画像(干渉縞)は下図のようになります。

ここで横軸は天体の位置を表す座標で、θ0というのは天体の正確な位置です。この縞模様の全体が望遠鏡単体の分解能で決まる点像の大きさに匹敵します。それに対して縞一本分の広がりは、望遠鏡間の距離と向いている方向で決まる分解能の大きさになります。縦軸は電磁波の強さです。
 同じ条件で、点と見なせない広がった光源 (望遠鏡を離した距離で決まる分解能よりも広がった光源)を観測すると、干渉縞はどうなるでしょうか。実は次の図

のように、広がり方の程度によって、縞模様がはっきりしなくなっていきます。干渉計で行う2つめの処理、

「最も強め合う条件で生じた干渉の波形の強さ(=波の振幅=>コントラスト)を測る」

では、この縞模様のはっきりさ具合(コントラスト)を定量的に測ります。この測定値が天体の画像を合成する上での画像情報の一つになります。後は、望遠鏡間の距離や離す方向を様々に取って、この測定値(画像情報)をできるだけたくさん増やします。測定値が多ければ多いほど、より正確な画像を合成できるのです。

−なぜコントラストを測ると画像が合成できるのか(簡単だが狐につままれたような説明)−
 干渉縞のコントラストの値を望遠鏡の配置の組み合わせによって数多く集めると、どうして画像が合成できるのでしょうか。これには、コントラストという測定値を...望遠鏡間の距離と方向に対応した分解能

〜 (電磁波の波長)/(望遠鏡間の距離)[ラジアン]

だけ離れて、光源が存在するかどうかに関する情報である...と捉えると容易にイメージすることができます。 つまりこういうことです。

どうですか? ある間隔だけ離れた光源があるかないかの情報を多く集めると、画像が推定できそうな気がするでしょう。

−なぜコントラストを測ると画像が合成できるのか(フーリエ変換を使った説明)−
 さて、いよいよ一般に馴染みの少ない、大学数学で習う概念を取り入れて説明してみましょう。それではいきなり寄り道をして、その概念をまとめます。

概念1 自然に存在する形は、多数種の波形を重ね合わせて再現できる。

 この自然に存在している形というのを、ちょっと数学的に言えば、ある範囲(つまり有限な大きさ)で区分的になめらかであり不連続点を含まない(つまり段差が所々あっても良いがちゃんとつながっている)形ということになる。例をあげればこんな形だ。

これが許されるなら身の回りのどんな形にも適用できる。

概念2 「形を知っている」ということと「波形の重ね方を知っている」ということは同等である。

 適当な形が波の重ね合わせで表現できてしまうのなら、形そのものの情報(座標xに対する値f(x))を知っていることと、波の重ね方の情報(周波数νの波に対する波の振幅a(ν)とずらし量φ(ν))は同じ価値を持つということになる。一般に波の重ね方の情報は、大学数学程度の計算をすると

w(ν)=a(ν)exp(i・φ(ν))

のようにまとめることができて、波の基本形(三角関数)にかける係数として表現できます。ここで“i”というのは、数学上の特殊な数字で“純虚数”と呼ばれ、定義は「i×i=-1」になる数字というもの[まあ、どうでもいいけど]。つまるところ、f(x)とw(ν)は、見方が違うだけで情報として同じ事を言っているということになるのです。

概念3 ある形を表す関数f(x)と波の重ね方を表す関数w(ν)は、一方から他方を計算できる関係にある。

 関数f(x)がわかっている時、f(x)を使って波の重ね方w(ν)を求める処理を“フーリエ変換”と言います。逆に、波の重ね方w(ν)がわかっている時、w(ν)を使って元の関数f(x)に戻す処理を“逆フーリエ変換”と言います。

 

 これらの概念を使って説明し直すと、干渉縞のコントラストの値というのは、天体の画像情報を波の重ね方で表現した値の一つだということになります。ここでは、望遠鏡の間隔と方向が、画像を表現する波の周波数に対応します。つまり望遠鏡の間隔,方向を様々に取って干渉縞のコントラストを測定すれば、波の重ね方の情報がそれだけ多く得らたことになります。こうして得られた波の重ね方の実測値(関数)を逆フーリエ変換すれば、天体の画像が合成できるというわけです。

 干渉計を構成する時は、この波の重ね方の情報をできるだけ多く速やかに得られるように考慮します。そのためには、望遠鏡をできるだけたくさん用意し、色々な間隔と方向のパターンが取れるように配置します。地球の自転によって望遠鏡の位置関係が刻々と変化することも利用します。こうした努力をしても、実際に得られる情報は、完全な画像を合成するには歯抜けた状態になります。そこは画像処理の技術を縦横に駆使することで、歯抜けた情報を推定によって埋め、見た目にもっともらしい画像を得ているのです。その画像処理の話しについては、また別の機会にとしましょう。


戻る