Title-SPH

 この読み物は、97年国立天文台一般公開において、私が当時所属していた天文学データ解析計算センターが掲示した展示資料をもとに、新たなレイアウト&加筆を加えながらオリジナルに近く復活させたものである。

 ただし私はSPH専用計算機2号機の概念設計に関わっており、この初号機の成果には正直言ってあまり貢献していない。従って、この読み物はプロジェクトの現状報告として私が作成したものではあるが、写真の人物は初号機開発を担当した院生であり、決して私ではないので念のため...。ともかく大学院生の悲哀をお楽しみください。


− ○月×日 AM10:00 某天文台一般公開、ゲンドウ氏の居室

冬月

「今年も始まったようだな。だいぶ集まっているようだぞ。SPH初号機の準備はできているのか?」

ゲンドウ

「ああ...手は打ってある。」


− AM10:30 某天文台、院生室

シンジ

「ひどいよ!急に呼び出しといて。公開日だからって、いきなり説明しろだなんて!...。そんなことできっこないよ!!」

ミサト

「あなたの卒業がかかっているのよ。しっかり説明やって、それから寝なさい。」

レイ

「・・・」

「私が出ます。私が倒れても代わりはいるもの...」

シンジ

(逃げちゃだめだ...逃げちゃだめだ...)

「大丈夫、僕がやります。」

ミサト

「シンジくん...愛想よくね。」


− AM11:00 某天文台、一般公開展示ブース

シンジ

「えっと...これが、ぼっ僕の初号...流体...」

(なんだって僕がこんな...みんな父さんのせいだ。)

「あっごめんなさい。つまり専用の...計算を...」

アスカ

「あんたばかあ?」

「もう!グズでのろまなバカシンジに変わって、成績優秀の、この私が説明するわね。」

「そもそも流体っていうのは何かというと、例えば、私達の呼吸している空気や毎日飲んでる水みたいなもの。要するに風や川のように流れる性質を持った物体のことよ。
 それじゃ何で、そんな流体が天文学に関係あるのかっていうことが問題よね。つまるところ、よく
宇宙は真空っていうけど実はちっとも真空じゃないからなの。地球上に比べたら何もないに等しいくらい希薄なんだけど、物質はちゃんと存在しているわけ。夜空の星だって地球だって、この私達だって、宇宙に物質がなければ存在しないんだから。
 そうして、私達のあいだでは、
宇宙空間に存在する希薄なガスがどのように離散集合して私達が観測できる天体現象が起きているのか、をコンピュータを使って解明しようっていう作業が行われているのよ。
 宇宙空間にある流体(星間ガス)みたいに非常に希薄なガスの場合、
メッシュ法と呼ばれる通常の方法以外にも、SPH っていう計算方法が良く使われるの。
SPHっていうのは、
Smoothed Particle Hidrodynamics(滑らかにした粒子による流体力学)の略。要するに、

  1. 流体をいったん粒子の集まりとして、それぞれの粒子に働く力を計算し、
  2. 運動方程式を解いて粒子の移動する位置を割り出したら、
  3. 粒子の存在をぼやかして流体に戻してしまう、

っていう計算方法なの(図1)。

いずれにしても、こういった計算は、マギ(スーパーコンピュータ)を使っても大変な仕事になってしまうのよね。そこで登場するのが、現在開発中のSPH専用計算機の2号機...」

シンジ

「ちょっと、アスカずるいよ。勝手に自分の話するのやめてよ!今日は僕の初号機の話をするんだろ。」

「えっと、これはリツコさんから聞いたんだけど、SPH の計算で大変なのは運動方程式を解くことよりも個々の粒子に働く力を計算する部分なんだって。運動方程式を解く部分は、調べたい現象(問題)によっても、計算プログラムを作った人によってもまちまちだけど、力の計算はやり方がハッキリと決まっているから、その部分だけを一定の方法で高速に計算する回路を作ってやって、そこにデータを流してやるといいんだって言うんだ。運動方程式を求める作業が短い時間で済むので、全体の計算が高速化するというのがポイントなんだって。」

「これが SPH専用計算機初号機のシステム。左手の大きな箱が力を計算するSPH専用計算機で、右手のラックに収まっているのは運動方程式を解くホストコンピュータなんだ(図2)。

 そうだ。今日は君に初号機の中を見せてあげるよ。

 箱の中には、力を計算する回路の実装された専用計算機のボードが8枚刺さってる。開いた蓋の裏側に付いているボードは、ホストコンピュータとデータのやり取りをするための回路なんだ(図3)。

 えっと...そしてこれが、専用計算機のボード。4つある金ラベルのチップが SPH専用LSI(集積回路)...なんだって...良くわかんないけど(図4)。」

「こうやって、毎日、僕はラックの前に座って初号機を操っているんだ(図5)。」

シンジ

「あれっあれっ?なんか変だぞ。動け!動け!!。」

「ミサトさん、動かないんだ。助けてよミサトさん!!」


− 展示ブース内作戦指令室

ミサト

「大丈夫?!シンジくん。」

「まさか...暴走?!」

リツコ

「File System Full...何者かがホストコンピュータに巨大なデータファイルを形成。システムを圧迫しています。」

ゲンドウ

「使徒だな...」

冬月

「どうする。ここで初号機をダウンさせられたら面倒だぞ。」

ゲンドウ

「背に腹は変えられんよ。使徒せん滅を再優先!初号機システムの電源をカットして再起動後、マギを使って初号機ホストコンピュータに侵入。データファイル型の使徒を消去せよ。」

ミサト

「電源カット?!...。いきなりそんなことをしたらホストコンピュータが!!!...」

ゲンドウ

「ホスト?そんなもの...。壊れたら、DECの新型にでも買い替えればよい。」

シンジ

「父さん。もしホストが壊れたら僕の卒業はどうなるの?。父さんは僕のことなんかどうだっていいんじゃないか!」

「それじゃ父さん...」

ゲンドウ

「かまわん。電源を切れ!」

ミサト

「シンジくん!!!!」


− PM3:30 展示ブース内作戦指令室

冬月

「書き込まれた巨大データファイルは消滅。ホストも無事だったようだな。」

ゲンドウ

「ああ...。冬月、後はまかせる。」

冬月

「またアキハバラか...」

ゲンドウ

「ああ、新種の林檎を物色にな...」


注)この物語はフィクションであり、登場人物および人間関係は全て架空のものです。


文責)だーれだ?

答え)


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