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NIC解析マニュアル

Last-modified: 2020-02-18 (火) 22:21:59 (1529d)
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概要

  • ここでは、NIC で取得した撮像データ (偏光なし) の一次処理の流れを記す。
  • 観測マニュアル に記された手順で取得したデータを処理する。
  • この内容は、下記の文献の一部を適宜修正・加筆の上まとめたものである。
  • 加筆・修正・編集にあたっては高橋隼氏提供の資料を参考にし、一部引用している。
  • 西はりま天文台内では、制御室の gamera (192.168.42.204) にインストールされたスクリプトで自動処理できる。

全体の流れ

  • 撮像データの一次処理は下記の通りの流れで行う。カッコ内は自動処理で出力されるファイル名。
  1. ダーク差し引き (*.da.fits)
  2. フラット補正 (*.fl.fits)
  3. バッドピクセル補正
  4. ホットピクセル、ダークピクセル補正 (*.rr.fits)
  5. スカイ画像作成 (*.sk.fits)
  6. スカイ差し引き (*.ss.fits)
  7. 縦縞パターン除去 (*.sp.fits)
  8. 画像位置合わせ
  9. 重ね合わせ (*.cm.fits)
  10. WCS 貼り付け (*cmw.fits)
    ImageReduction_NIC.png
  • 上図は各段階での画像の例。(a) 生画像、 (b) 4までを行った画像、 (c) 5で生成したスカイフレーム (d) 6のスカイ差し引き処理後の画像、 (e) 縦縞パターン差し引き (7) 後の画像、 (f) 最終画像

1. ダーク差し引き

  • ダークフレームの取得手順 に従って取得したダークフレームを用いる。
  • オブジェクトフレームと積分時間を揃えたダークフレームを最低10-15枚程度使い、重ね合わせる。
  • gamera マシン (制御室) にインストールされている自動スクリプトでは、3sigma clipping をした後で平均 (average) をしている。
  • 理想的にいうと、宇宙線の影響を受けたピクセルは除去した方がよい。
  • ダークフレーム取得の際に、コールドシャッターの位置が適切でないと、光が入る。Pol 窓や Open 窓が入ってしまったフレームは、前もって削除しておく。
  • 重ね合わせたフレームを、オブジェクトフレーム (含・フラットフレーム) から引き算する。
  • 自動スクリプトで処理すると、*.da.fits という名前のファイルができる。(下記は J band の例)
    ダーク引き後  j(date)_(frameID).(ObjectName).da.fits  [例] j120717_0098.SN2012dn_01.da.fits

2. フラット補正

  • 検出器上の位置による感度のむらを補正する。
  • 通常、トワイライトフラットを用いる。フラットフレームの取得手順を参照。
  • マスターフラットを用いる場合には、gamera の /home/nhao/nic/nicred.latest/common 以下にあるもののうち、日付の近いものを選んで用いる。
    • 2020年2月現在、マスターフラットは2015年に取得されたものを採用している。通常の観測では十分な精度が出ているが、高い測光精度(1% とか)を求める場合は各自取得することを推奨する。
  • フラットの作成に関しては特別なツールを作ってはいない。ペアを作って引き算する操作以外は通常の手順をふめば良い。
  • 手順としては以下の通り。
    1. カウントの差が2000以上あるフレームのペアを複数用意する。
    2. それぞれのペアで (高カウントのフレーム) - (低カウントのフレーム) の引き算をする。
    3. median でスケールしてレベルを合わせ、重ね合わせる。 (IRAF/images.immatch.imcombine を combine=median, scale=median, reject=avsigclip で走らせるなど)
    4. 全体の平均が1になるよう、規格化する。(例: IRAF/noao.imred.generic.normalize など)
  • 几帳面にやりたい場合は、(3)-(6) の処理 (ホットピクセル・ダークピクセル補正)までをやってもいい。ただしどのみち後の段階でこれらはやることになるので、ここでやる必要は必ずしもない。
  • 規格化したフレームで、ダーク処理後のフレームを割り算する。(IRAF/images.imutil.imarith など)
  • 自動スクリプトで処理すると、*.fl.fits という名前のファイルができる。(下記は J band の例)
    フラット補正後  j(date)_(frameID).(ObjectName).fl.fits [例] j120717_0098.SN2012dn_01.fl.fits

3 & 4. バッドピクセル補正、ホット/ダークピクセル補正

  • バッドピクセル (決まった位置に出る) は、IRAF/proto.fixpix 等を用いて補正する。
    • 各バンド(検出器)のバッドピクセルは以下の通り。フォーマットは x1 x2 y1 y2。すなわち、x1<x<x2, y1<y<y2 の領域をマスクし、そのすぐ外側のピクセルの情報を使って内挿する。2列だけの場合は x1 y1 すなわち (x1, y1) のピクセルをマスクする。
      • J band
        277 291 134 148
        186 191 229 236
        260 270 1017 1023
      • H band
        277 291 134 148
        186 191 229 236
        961 962 672 673
        1002 1004 652 654
        1005 1006 649 651
        966 967 612 619
        964 966 609 614
        1001 1007 646 654
        13 15 242 245
      • K band
        140 141 549 551
        162 163 806 807
        162 805
        163 804
        164 167 801 803
        162 170 795 800
        171 173 798 802
        186 191 229 236
        277 291 134 148
        320 321 586 589
        321 323 591 593
        778 779 682 688
        780 786 671 676
        779 780 677 680
        785 789 670 671
    • 上記のリストを各バンドのマスクファイルとして保存しておき、fixpix への入力として使う。
      fixpix @(入力画像リスト)  (マスクファイル)  @(出力画像リスト)
  • ホット/ダークピクセルは、IRAF/noao.imred.crutil.cosmicrays 等を用いて補正する。ダークピクセルの場合は-1をかけて反転する。(下記実行例を参照)
    cosmicrays @obj_fl.lst @obj_cr1.lst
    imarith @obj_cr1.lst * -1 @obj_cr2.lst
    cosmicrays @obj_cr2.lst @obj_cr3.lst
    imarith @obj_cr3 * -1 @obj_cr4.lst
     obj_fl.lst: フラット処理後のファイルリスト
     obj_cr?.lst: cosmicrays 処理で生成するファイルリスト
     ==> この例ではホット/ダークピクセル除去後のファイルは obj_cr4.lst に書いておく
    • IRAF/cosmicrays のパラメーターとしては、threshold をスカイの5σ以上、fluxratio を2-10程度にするとよい。
    • L.A.Cosmic 等の別のツールを使ってもいい。
  • 自動解析スクリプトを用いると、*.rr.fits という名前のファイルが出力される。(下記は J band の例)
    除去したピクセル j(date)_(frameID).(ObjectName).rr.fits [例] j120717_0098.SN2012dn_01.rr.fits

5 & 6. スカイ差し引き

  • ここでいう「スカイ」は、いわゆるスカイというよりも、ダーク、フラットなどで取り切れない「うねうね」のパターンを差し引くといった方がが正しい。NIC のデータに対する対処療法的な操作。
  • 5. スカイ画像作成は、ディザー観測で得られた画像を重ね合わせることで行う。位置合わせはせずに median で重ね合わせる。(IRAF/imcombine 等)
    • 星の少ない天域であれば、オブジェクトフレームをそのまま用いることができる。
    • 星の混んだ天域を観測している場合には、なるべく近傍の星の少ない天域をスカイ用に別途撮像する。積分時間・モードは同じにする。
    • 視野内には数個程度の星があっても OK。
    • 詳しいプロセスは以下の通り。(自動解析スクリプトで用いている方法。最適である保証はない。)
      1. 重ね合わせ前に、各スカイフレームを中央値 (median) で規格化する。
      2. 規格化したフレームを中央値で重ね合わせる。(例: IRAF/imcombine を scale='median', combine='median', reject='avsigclip' で実行すれば、a. の処理も一括でできる)
      3. 各オブジェクトフレームのスカイレベルを見積もり、それに合わせて重ね合わせ後のスカイフレームをスケーリングする。
  • 6. スカイ差し引きは、基本的にはスケールしたスカイ画像を単純に差し引けばよい。(IRAF/imarith 等)
  • 自動解析スクリプトを用いると、以下の2種類のファイルが出力される。(J band の例)
    合成したスカイ画像 j(ObjectName).sk.fits  [例]jSN2012dn_01.sk.fits
    スカイ引き後の画像  j(date)_(frameID).(ObjectName).ss.fits [例] j120717_0098.SN2012dn_01.ss.fits

7. 縦縞パターン除去

  • NIC のデータには検出器由来の縦縞パターンが存在する。これも現状では対処療法的に差し引く必要がある。
    • ダーク、フラットなどで取り切れない。読み出し時の電圧の変動が原因と考えられている。
    • 前述の「スカイ」と違い、列ごとにほぼ一定の値を示す。
    • 下記の2つの方法がある。
    1. 星の少ない天域の場合 (Sampling 法)
      • 星の写っていない行 (典型的に 20-100行) を取り出して各列を縦方向に平均し、縦縞パターンのプロファイルを得る。
      • 同様の操作を上半分、下半分に対してそれぞれ行う。
      • 上半分のプロファイルを画像の上半分から、下半分のプロファイルを下半分からそれぞれ差し引く。
        NIC_colpattern.png
      • 上図の例では、緑の横長の長方形で囲まれた場所を使う。上半分のプロファイルは上の、下半分のプロファイルは下の領域で測定したものを差し引く。
    2. 星の多い(混んだ)天域の場合 (Median 法)
      • 下図のような例では「星の写っていない行」がないため、全体を使う。
      • 画像の上下半分でそれぞれ、各列のカウントの中央値 (median) を取り、縦縞パターンのプロファイルを得る。
      • 縦縞パターンのプロファイルが得られたら、それをオブジェクトフレームから差し引く。
        NIC_colpattern_median.jpg
      • 上図は、左が縦縞パターン除去前、右が Median 法による縦縞パターン除去後。全体の中央値を用いてもある程度縦縞パターンは除去できている。
  • 自動解析スクリプトを用いると、*.sp.fits という名前のファイルに出力される。(下記は J band の例)
    縦縞パターン除去後  j(date)_(frameID).(ObjectName).sp.fits [例] j120717_0098.SN2012dn_01.sp.fits
  • この時点で WCS の貼り付けが成功したフレームに関しては、*spw.fits という名前の WCS 付きファイルも生成される。

8 & 9. 位置合わせ & 重ね合わせ

  • 基準となる星の中心位置を測る。(IRAF/imexamine、SExtractor 等)
  • その基準星がディザリングセット内ですべて同一のピクセルに来るように、画像を平行移動する。(IRAF/images.imgeom.imshift 等)
    • NIC はさほど視野が広くないため、ゆがみ補正などはひとまず考えなくてよい。
    • 当然、ローテーターの位置角を一定にしておけば、回転なども考えなくてよい。
    • 大きめのブランク画像(カウントは-10000とかの現実的でない値)を作ってそこにオブジェクトフレームを貼り付ければ、外縁部を無駄にせずに位置合わせができる。(自動解析スクリプトではそうしている)
  • 平行移動によって位置合わせが出来たら、重ね合わせる。(IRAF/imcombine 等)
  • 自動解析スクリプトの出力は以下の通り (J band の例)。
    位置合わせ後 j(date)_(frameID).(ObjectName).sf.fits  [例] j120717_0098.SN2012dn_01.sf.fits
    重ね合わせ後 j(ObjectName).cm.fits  [例]jSN2012dn_01.cm.fits

10. WCS 貼り付け

  • 視野内に写っている星を使い、2MASS 画像などを参照して座標を求める。
  • IRAF でやる場合は、ccmap、ccsetwcs などを使う。
    • ccmap : 画像に写っている天体の「X Y RA Dec」の対応リストを読み込む。
    • ccsetwcs : 「WCS を貼り付けたい画像」「ccmap の出力ファイル」を入力し、貼り付けた画像を出力する。
  • やり方は多数ある。astrometry.net などを用いてもよい。
  • 参考リンク: WCSTools
  • 自動解析スクリプトは WCSTools の imwcs コマンドを使い、2MASS 画像を参照して WCS を貼り付けている。現在のところ成功率は高くない。制御室の gamera マシンでは、以下のコマンドを実行すると、位置較正のみを行うことができる。
    gamera% ds9 &
    gamera% getwcs.sh [ファイル名].cm.fits
    • gamera マシン以外では整備していないので注意。
    • 自動解析スクリプトの出力ファイルは下記の通り。(J band の例)
      縦縞パターン除去後+WCS  j(date)_(frameID).(ObjectName).spw.fits [例] j120717_0098.SN2012dn_01.spw.fits
      重ね合わせ後+WCS  j(ObjectName).cmw.fits [例] jSN2012dn_01.cmw.fits
    • 位置較正の過程で、ピクセルスケールを計算してヘッダーに書き込むようになっている。この値が設計値 (概算) である 0.16 arcsec/pix から大きくずれている場合は、位置較正に失敗している。

履歴

  • 2018.03.28 新規作成 (斎藤)
  • 2018.04.01 とりあえず流れを追えるところまでの加筆・編集が完了 (斎藤)